Strength in Numbers Tee
NBAファイナル第1戦、ベンチプレイヤーたちの活躍でウォリアーズが勝利したのを見ていて、ふと、ジャッド・ブッシュラーのことを思い出した。90年代後半、2度目の3連覇のときのシカゴ・ブルズにいたベンチプレイヤーだ。
ずば抜けたスキルを持っていたわけではなかったが、ジャンプ力や運動能力は高く、ハッスルプレイが身上の選手だった。ブルズでは、毎試合のレギュラーローテーションから外れていることが多かったが、それでもプレイオフの大事な試合で1~2分出てきて、リバウンドを取ったり、スティールを奪ったりして、チームに貢献していた。
フィル・ジャクソンは、スター選手ばかりでなく、ブッシュラーのような11番目、12番目の選手たちの持ち味を引き出すこともうまかった。そして、ブッシュラーらも、チームの中で自分にもやるべき役割があると信じ、出番を与えられたら、きっちり仕事をしていた。
なぜ他の控え選手でなくブッシュラーを思い出したかというと、彼はスティーブ・カー・ヘッドコーチの大学時代のチームメイトで、今でも頻繁に連絡を取りあう親友だからだ。カーも、12番目や13番目の選手に対して、ブッシュラーが当時のブルズで感じていたようなチームの一員であるプライドを持っていてほしいと思ってコーチしているのだろうと想像していたのだ。
1996年優勝当時のスティーブ・カーとジャッド・ブッシュラー(左)。ブッシュラーは平均10分以下の出場時間ながら貴重なベンチプレイヤーとして96~98年の3連覇に貢献した
「自分も、キャリアの半分はローテーション入りしていて、半分は入っていなかった。だから、11番目、12番目の選手になる気持ちというのはわかる。試合に出られず、貢献していると感じられないというのは、とても孤独なんだ」。
フィル・ジャクソンは、ベンチプレイヤーたちに、そういった孤独をあまり感じさせなかった。
「フィルのもとでプレイしていたとき、ロスターにいる選手が2週間以上、試合に出ないということは珍しかった。試合の真最中に、まるで思いつきのように(ふだんは試合に出ないような)選手を、2分ぐらい出すんだ」。
カーは当時を思い出しながら語った。
「フィルが天才だったのは、ベンチの選手たちを使うことで強いチームを築いていたこと。レギュラーのローテーションの中でなくても、どの選手も出すんだ。どの選手もチームにとって大事だということや、いつでも準備をしておくようにと思い出させるための、彼流のやり方だった」。
11番目、12番目の選手も、競争を勝ち抜いてきたNBA選手なのだが、プレイオフに入って競争のレベルが上がってくると、そのことを忘れてしまったかのように限られた選手たちに頼るコーチは多い。
カーは「このチームは最初から選手層が厚かったから、私の仕事は簡単だ」と言う。だからこそ、昨シーズン、ウォリアーズのヘッドコーチになってすぐに、“Strength in Numbers”というキャッチコピーを考え、トレーニングキャンプで選手たちに見せる映像クリップに盛り込んだ。「数による強さ」、つまり、「全員で戦うことの強さ」という意味だ。去年のプレイオフから、チームのスローガンとしても使われている。
たとえば、ファイナル第1戦で合計11分半出場し、ショーン・リビンストンと共にチームのスパークとなる活躍をしたリアンドロ・バルボサもそうだ。彼のウェスタン・カンファレンス決勝第7戦での出場時間はわずか2分22秒。それでも第3クォーター終盤に、ドライブインからのフローターを1本決めている。
「僕らのベンチには、リーグに長くいて、経験豊かな選手がいるから、みんなが犠牲になることができるんだ」とバルボサは言う。
「確かに、試合に出るのは2分、3分かもしれないけれど、それでもみんな心構えができて試合に出ている。スティービー(カー)はコート上で起きていることにあわせて、どの選手を出すのがいいのかをよく理解している。きのうの夜(第1戦)も、そういう夜だった。スターターが活躍できていなかったけれど、ベンチが入ってきて、いい仕事をすることができた。日曜(第2戦)はまた違う状況になるかもしれない。でも、僕らはいつでも準備ができているよ」。
プレイオフに出てくるようなチームは、どこもスター選手たちが活躍したときには取りこぼさずに勝つことができるチームだろう。しかし、シーズンの最後まで勝ち残ることができるのは、スター選手が抑えられたり、不調だったりしても、それでも何らか勝つ道を見つけられるチームなのではないだろうか。
第1戦は、王者ウォリアーズがそんな強さを見せつけた試合だった。
文:宮地陽子 Twitter: @yokomiyaji
[コラム]Strength in Numbers――スティーブ・カーHCの巧みなベンチプレイヤー起用法(宮地陽子) | NBA Japan
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